園長の一言 子ども理解に活かす「感覚統合」の視点

私幼時報5月号に、子ども理解に活かす「感覚統合」の視点という記事が掲載されました。幼稚園でも、工作用ののりをさわるのを嫌がる子もいます。またどろんこをさわるのを嫌がったり、大きな音を嫌がる子もいます。

        視点 子ども理解に活かす「感覚統合」の視点 

                  藍野大学 医療保健学部作業療法学科 作業療法士 高 畑 脩 平
「感覚統合」という言葉を聞いたことはありますか?感覚統合理論は、1960年代にアメリカの作業療法士エアーズ博士によって体系化されました。当初は学習障害の子どもに対する治療法として開発されましたが、現在では、さまざまな発達の特性を持つ子どもたちへの支援や、障害の有無を問わず、子どもの発達を理解する上で重要な視点となっています。
 この理論は、保育や教育の現場で特に役立つ考え方です。子どもの特性や行動を理解し、楽しめる遊びや環境を提供することができるからです。
「感覚とは?」
 一般的に感覚といえば「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚」の五感を思い浮かべるかもしれません。しかし、これに加えて「固有感覚(体の動きを感じる感覚)」と「前庭感覚(体のバランスや加速度を感じる感覚)」の二つがあり、合計で七つの感覚があります。感覚の感じ方には個人差があり、大きく「過敏タイプ(刺激を過剰に感じる)」と「鈍感タイプ(刺激を感じにくい)」に分かれます。例えば、ジェットコースターが好きな人と苦手な人がいるのは、前庭感覚の過敏・鈍感の違いによるものです。同じように、静かな環境で集中したい人と、カフェのような賑やかな場所の方が集中しやすい人がいるのは、聴覚の過敏・鈍感の違いによるものです。
 このような感覚の違いが極端になると、園や学校生活の中で困りごととして現れることがあります。以下に、各感覚における過敏タイプと鈍感タイプの特徴を整理しました。


「感覚ごとの特徴」
視覚
• 過敏タイプ:「光がまぶしい」「人混みが苦手」「見た目の違いに敏感」
• 鈍感タイプ:「カラフルなものを好む」「見た目の違いに気づかない」
聴覚
• 過敏タイプ:「大きな音や突然の音が怖くて耳を塞ぐ」「騒がしい環境が苦手で教室から出ていくことがある」
• 鈍感タイプ:「音を出すことを好む」「音の聞き間違いが多い」
嗅覚・味覚
• 過敏タイプ:「香水や食べ物のにおいで気分が悪くなる」「偏食が強い」
• 鈍感タイプ:「刺激の強い味を好む」「味の濃いものを好む」                        触覚                                                    • 過敏タイプ:「手足が汚れるのを嫌がる」「人に触られるのが苦手」

 • 鈍感タイプ:「汚れることを気にしない」「人や物を頻繁に触る」「水や砂、粘土の感触を極端に好みやめられない」
固有感覚(体の動き)
• 過敏タイプ:「姿勢を変えたがらない」「他人に体を動かされるのが苦手」
• 鈍感タイプ:「叩く・蹴る・噛むなどの強い刺激を求める」「棒や傘を振り回す」「力加減が苦手」
前庭感覚(バランス・加速度)
• 過敏タイプ:「高い場所や揺れる動きが怖い」「慎重な動きをする」
• 鈍感タイプ:「高い場所に登りたがる」「飛び跳ねる」「クルクル回る」「走り回る」
「感覚の違いを理解し、適切な環境を整える」私たち自身も、七つの感覚それぞれにおいて、過敏な部分と鈍感な部分を持っています。これらの感覚の違いが極端な場合、子育てや指導の中で「育てにくさ」を感じることがあるかもしれません。しかし、最も大切なのは「その子がどのように感じているのか」を理解し、適した環境を整えることです。過敏タイプの子どもは、「慣れるではなく防衛する手段を身につける」、鈍感タイプの子どもは、「感覚をしっかりと満たす」というのが支援の方向性になります。感覚統合理論を活用することで、子どもたちがより快適に過ごし、自分らしく成長できるようにサポートしていけると良いですね。
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プロフィール
高畑脩平(たかはた・しゅうへい)
京都大学医学部保健学科を卒業し、作業療法士免許を取得。約20年間、発達障害児を対象とした小児リハビリテーションに従事。著書に「子ども理解から始める感覚統合遊び」「乳幼児期の感覚統合遊び」など、保育・教育現場で感覚統合の視点をどのように活かすかをテーマにしている。
NHK 子ども・子育て番組「すくすく子育て」「でこぼこポン!」など出演・監修を多数行なっている。